「政民合同會議」2020年7月8日 講師/宮本 雄二 元駐中華人民共和国日本国特命全権大使

2020年07月08日
  

「中国の直面する内外情勢と日中関係」

 新型コロナウイルス発生当初は地方が中央の政治を忖度し、コロナ対策よりも、全人代開催を優先し、隠蔽工作が起こってしまった中国だが、真実を求めるネットの国民の声に押され、“人命尊重”を前面に打ち出した対策強化をアピールする形へと方針を変更。この危機をチャンスに変え、コロナ収束宣言によって中国経済が世界を牽引するというシナリオを描いていたが、このコロナのしたたかさの故に、シナリオ通りには行かず、中国も想定外の打撃を受けていることは間違いない。マイナス成長であってもそれなりに耐えられる日米と異なり、衝撃に耐えうるかどうか未経験のシステムしか持っていないのが中国で、今回のコロナでもその脆弱性が明らかになるかも知れない。

 イデオロギーを重視し、ナショナリズムに乗った習近平政権の対外強硬外交はこれまで失点続きであった。習近平の権力集中は2018年春をピークに勢いを失っており、コロナの打撃を克服し一刻も早く経済を建て直すためには、外交という観点からは経済を重視した国際協調路線が不可欠と考える人達も増えており、次期党大会では現在の対外路線が中国にとってベストかどうか、相当厳しい議論となるだろう。

 米中の対立は続いており、米国の対中認識の根本的変化により、この対立の構図は長期化する。中国経済は経済のロジックに従い、市場を重視した改革になる可能性が高い。対米関係が中国経済、社会、政治、外交、安全保障に及ぼす影響は大きく、いかに中国が対米関係を調整していくかが、両国の関係改善の鍵となるだろう。

 中国が自己主張の強い対外強硬政策を修正しないのであれば、わが国は海上保安庁を強化する等の方法により、尖閣問題にせよ、中国の圧力には決して屈しないという、より明確で強いメッセージを行動で示す必要がある。

 中国の普通の人の夢は、良い人生を送ることにある。それは、安心・安全で秩序があり、礼儀正しい社会だ。鄧小平の改革開放モデルは日本であった。この20年間日本経済は低迷したといわれているが、反面、社会は成熟したともいえる。清潔で秩序正しい日本社会のソフトパワーに感動する中国人は多い。中国の強硬外交はいずれ行き詰まる。中国にこのままではまずいと思わせるためにも、日本は国際社会と協調して是正させるべきだ。G7を活用するチャンスでもある。

 宮本氏はこのほか、「中国国内にも現在の強硬路線を危惧する勢力はあるが、良識派はどこの国も弱い」と語ったほか、「安倍政権は外交に関していえばいい外交を行っている」と安倍政権の外交を評価。

 質疑応答では習近平の国賓来日の是非などに質問が及ぶと、「トップの往来が実現すれば日本にとってもメリットは大きく、10年か20年に一度の貴重なチャンスを無駄に失速すべきではない」との見解を述べた。